※流血シーンがあります。ダークな作品が苦手な方はスルーしてください※



彼のアパートの前で、私は一度立ち止まって空を仰いだ。

闇夜に浮かぶのは三日前と同じ、まるで血に染まったような紅い月。


ねぇ、お月様

あの夜もあなたは紅く染まっていたね。

別れ話をした帰り道、公園で独りで泣いた私を、あなたはずっと見ていてくれた。

あの日から全く時間が進んでいない気がするわ。


私達お互いに嫌いになって別れた訳じゃないの。

彼とはね、大学時代から5年間付き合っていたの。

そろそろ結婚も考えていたのよ。私達お互いしか考えられなかったし、それが自然だと思っていたの。

でも、ひと月前に彼に海外赴任が決まった時、一緒に行こうと言う彼に、私はすぐに頷けなかった。

何故って、設計事務所に勤めて3年、初めて自分の設計した建物が採用されることになって、夢を掴むチャンスを目の前にしていたから。

仕事と恋のどちらかを選ぶことができず苦しむ私に、彼は自分から別れを切り出した。