担当医は深く息をついて,
「そんなにいませんでした。来てからすぐ目覚まされてましたよ。はい,じゃあもういいですか?音聞きます。」
入れかけていた手を中に入れて,聴診器をあてる。
何なのよ…さっき『はい,ずっと。』っていったじゃない!!
自分が黙って入ってきたくせに…何この澄ました顔。
初っぱなから,私の中の担当医,尾上大輔の印象は最悪なものになっていた。
「はい,異常ないです。」
さっと服の中から手が抜かれた後に,ムスッとした顔で服を綺麗に直した。
担当医に反抗するかの如く。
「じゃあまた後で患部を見せてもらいにきます。」
そういってからムスッとしたまま,ベッドの上に座っている私の耳もとにぐっと顔を近づけて囁いた。
「大丈夫です。寝ているとき,涎を垂らしたり,寝言はおっしゃってなかったので心配しないで下さい。」
甘い,透き通った声で。
頭の中まで心地よい声の振動が広がって,脳みそが痺れて溶けてしまいそうだった。
そういって,担当医は,さっと,カーテンを閉めて出て行った。
「甘ぁい……」
頬に両手を当てて,先ほどの甘い響きの余韻に浸っていた。
って……
違う違う!!!!


