「なんでまたいきなりそんなこと言いだしたの?」


率直に尋ねてみると


「桜は…母の花なんです。
うちの母の名前がさくらってだけなんですけどね。

最近、ちょっと厄介な病気にかかっているのに気付いて、入院することになったんですけど…
病院の中じゃ退屈だろうし、普段なかなか会えないから写真だけでもそばに置いてほしいなー…なんて。

私事ですみません。
こんな話聞きたくないですよね」


予想外に真面目な答えが返ってきて、
先ほどあんな浅はかな考えをしてしまった自分が恥ずかしくなった。


「あの…今回は依頼人の立場だし、お金も払います。
だから…」


暗くてよく見えないけど、きっと今彼女は切ない目をしているのだろう。
それを想像したらなんだかたまらなくなって、無理矢理彼女の言葉を遮った。


「撮ろうか」


「…え?」


「いいよ。
っていうかむしろ撮らせて?
その代わり一つ条件」


「…何ですか?」


「絶対いい作品にして。
そしたら次の写真集の表紙にするから」


我ながらかっこつけたセリフを言ったもんだ。
なんだか体がかゆくなってきた気がする。


「一ノ瀬さん…」


「ん?」


「頑張ります!
それと…ありがとうございます」


興奮のあまりか、彼女が道端にも関わらず抱きついてきた。


冷たい体。