若旦那のクルマを差し出され、
運転席でスタンバっていると、
すぐに彼女は下りてきた。


「おはよ!後ろイイ?」

「あ、あぁ。(後ろに行くのかよ。完全に運転手じゃん、俺。)」


クルマに入り込んだ彼女は、
なにやら、カバンの中をガサゴソと探りはじめた。


「じゃあ、いい?動くよ。」

「うん。お願いしまぁす。」

(朝から元気だなぁ。)


すると、彼女の手が後ろから伸びてきた。

「はい、これ。」


チューインガムだった。

「あ、ありがとう。」

「今日はごめんね、朝から。」

「いやぁ、なんも予定が無かったから…大変だな、電車もまだ動いてないっつーのに。」

「タクシーで行けよって思ってんでしょ?」

「ちょっと。」

「あたし道が説明できなくて…」

「…どこの人?」

「となり。」

「千葉?」

「ブー。」

「埼玉。」

「ブー。」

「神奈川?」

「ピンポーン!小田原。」

「近いなぁ!俺、静岡!」

「ホント!?こっち来て長いの?地理は完璧って感じ?」

「昨日、若旦那にみっちり仕込まれました。」