『…ごめん…』


聞き慣れているはずの、その低い声は、

いつになく、さらに低く…


その日以来、

違う言葉となって、
アンの耳に届くことは無かった。


が、

ふとした時、耳の奥で
いつまでも、何度でも
木霊のように聞こえてくる。



最近アンに、やっとついたマネージャーとも、ウマくやっている。


仕事も順調。


まわりからは、
“以前よりも精力的で、イキイキしている”
などと言われ…


実際、何かに打ち込んでいる方が、
嫌なことを思い出すこと無く、
さらに、
余計なことも考えずにもすんでいた。


でも、忘れたことはない。

忘れようと、すればするほど、
自分の言った、あの一言や
あのシチュエーション、
そして、
伸治が見せた、あの表情と様子が目の裏によみがえり、
思い出すたび、後悔させるのだった。



そして、なによりも、

アンは頑張っている!
失恋になど、まったく堪えていないし、
それどころか、
これをきっかけに女を磨き
魅力にすら替えた!

と思わせたかった。


いつマンションで会うことがあっても、
哀れみなど…
冗談じゃないと言う気持ちだった。