コンビニラブ

このとき由衣は、
まだ、心構えが出来ておらず、
伸治からの電話にためらい、出れずにいたのである。


もちろん、すぐにでも、
何かしらのきっかけを探して、
自分の方から、連絡をとるつもりでいたのだが、

この“間”が悪く…。


しばらくしてから由衣が掛けた、伸治の電話の着信音は、
ある理由によって、
伸治の耳には届かなかった。


それを、
さすがに愛想尽かされたと勘違いした由衣は、
動揺からか、
なぜか、吉野の番号に電話をかけていた。


「あのさ、気付いていないかもしれないけど、僕も、いち男なんですが…」

「知ってるよ!だから男心が知りたくて、こうやって聞いてんじゃん!」

「僕の心は届いてる?」

「そんな安売り、届くわけないでしょ!」

「ひどいなぁ。」

「ほら、その言葉にも心が感じられない。」

「でもさ、(こうして電話してくるってことは、)何かの役にはたってんだろ?」

「そりゃあ…気晴らしぐらいにはね。」

「そりゃ良かった。」

「何か言い返してみたらぁ!あたしだけが文句言って、バカみたいじゃん!」

「だって、俺ぐらいなんだろ?こんなこと言えるヤツ。」

「それは…」


駅から家路に向かう途中だった吉野は、
電話のこっち側で、
そっと、ほくそ笑んでいる。


そしてマンションに着く頃、電話を切り、
ドアを開け、エレベーターへと乗りこんだ。