当然、由衣の存在は知ってはいるが、
顔までは知らないアンだった。


そのことに気がついた瞬間、
吉野は、何やら語りはじめた。


「僕の役目は誰かさんに譲って、そろそろ退散準備をね。」

「え?」

「今年で卒院だから、俺。」

「!」

「そーなんです。知らなかったかな?」

「う、うん。」

「絵美里ちゃん、僕に興味無さすぎ!」

「よく言うよ!自分が踏み込まさなかったくせに。」

「だって俺、自由の利かない身だからさ!せっかく与えられた時間は、つまらないことに縛られずに、有効的に使いたいと思って!」

「なに?」

「絵美里ちゃんにはさ、人を引き付ける何かがあるよね。やっぱり、そーゆー星の下に生まれてきたんだって思う…強運の持ち主っつーの?」

「なんなの?突然。」

「頑張ってないってことじゃないよ。でも世の中には、あの手この手を使っても夢の叶わないヤツがいるんだからさ、せっかく掴んだソノ道には、逆らわない方が良いと、俺は思うんだ。」

「う、ん。」

「俺はさ、決められたレールに乗るのは嫌いじゃないし、俺を必要としてくれる場所なら、意外と力を発揮できるタイプなんだよね。」

「うん。分かる気がする。」

「だけど君には、俺じゃなくても、他にも助けてくれる人がいる。」

「あのさ、」

「それじゃあ、張り合いがないんだよね〜。」

「頼りにしてるよぉ、あたし。」