―「・・ほうじょうきたい?」
ひとつひとつ確かめるように発音しても、
美香の頭の中でそれは、平仮名のまま変換キーが押されずにいる。
「そう。放って置くと縦毛癌になる危険もあるわ。
あなたの場合は部分胞状奇胎と言って、
今は小さいけれどだんだん大きくなっていくものなの。
だから残念だけど胎児がこれ以上育つことは有り得ないわ。
手術はなるべく早い方がいいわね」
 背の高い女医はそこまで言うと、
自分が連れて来るように言った敦司の方に向き直り、事務的な話を始めた。
二人の会話はノイズとしてしかもう耳に入らず、
美香は女医の白衣の裾からほんの少しだけ覗く紺色のスカートを、
じっと見つめていた。