お互いの気持ちがすれ違ってゆくにつれて敦司は、
何かきっかけがある度に、苛立ちや腹立ちを側にいる美香にぶつけるようになっていた。
それは決して激しい暴力ではなかったが、つねに貧血気味の美香は痣が残りやすく、
色白の身体にはそれが絶えなかった。

 翔太は、痣のひとつひとつを消していこうとするかのように美香を抱く。
でもその、痣をなぞる優しい唇と、痣そのものを残す腕や足に、
どれほどの違いがあると人は言うのだろう。

 痣も小さな跡も、不思議と美香にとっては同じだった。
どちらも愛情なのだと美香は思う。
たとえそれが、歪んでいても理不尽であっても。

 そして愛なんて、思い込みでしかない。

 半年前、美香が働き始めた店に、翔太はいた。
明るくて、自分の欲望に素直で、
まわりくどい物言いや行動を嫌う四歳年上の翔太に惹かれるのに、
そんなに時間はかからなかった。