自分自身の感情だけは、恐ろしいほど鮮明に蘇るなかで、
それを取り囲む人や、起こった出来事に対しての、
あまりにも客観的で曖昧や思い出し方に、美香は素直に驚いた。
 
 おそらくそれが、自分の原点なのだ。自分。
大切なものは結局自分。なげやりに、流されるまま生きている肉体とは裏腹に、
自分の心のやわさにうんざりする。傷つくことを恐れているのとは違う。
でも些細なことでぼろぼろになってしまう弱い精神。
 ―子供が欲しい。
 エゴでしかないその気持ちが象徴している。
人の愛し方もよくわからない自分。でも絶対的な愛が欲しかった。
自分を求めてくれる存在が欲しかった。
同時に、揺るぎなく愛情を注げる存在がどうしても欲しかった。
子供はおもちゃじゃない。
そんな言葉が頭をかすめようと、気持ちを押し留めようとは微塵も思えないほどに、
美香にとって、自分はつねに、中心だった。