「お前妊娠してるだろ」
今までふざけ半分にしゃべり続けていた翔太が、
いつの間にか普通の顔つきになってこちらを見ていた。
「ジュースでも飲むか?」
頷くと、店員を呼んで酒の追加と美香のジュースを注文する。

 翔太が今の店に来る前は何をしていたのか、
美香は知らない。
高校を出てからずっと太陽に背を向けた生活を続けているというだけで、
具体的が話は一度も聞いたことがなかった。
ただ、前に一度だけ翔太は女を妊娠させている。

「お前最近気分が悪いって言って、
ニ・三杯目からケンにウーロン茶運ばせてるだろ。
あいつ心配してたぞ。顔色も悪いしな」
 運ばれてきたりんごジュースを少しづつ口に入れながら、
もう自分の方を見てはいない翔太の横顔をぼんやり見つめる。
ゆっくり口を開きかけた美香にはしかし、言葉は出てこなかった。