―子供が欲しい。いや、ただ『赤ちゃん』が欲しい。
と言った方が正確な気持ちを、自分自身が子供でありながら、
美香は異常なほど持っていた。
子宮未成熟で生理不順が酷く、妊娠しにくい身体と知ってからは、
きちんと病院に通い、ホルモン注射のの痛みにも耐えた。
そしてやっときちんと毎月来るようになった生理のたびに、
泣きじゃくっては敦司を困らせていた。

自分と大切なもの、それ以外の記憶なんて美香にとってはないに等しい。
だから敦司が困っていたのか、内心うんざりしていたのか、
本当のところはわからないし、今となってはわかりたいとも思わない。
ただ、その時美香を抱き締めて慰めてくれた人は確かにいたし、
それは敦司以外の誰でもないのだ。