居酒屋の掘り炬燵に足を伸ばして、
レモンを絞る翔太の顔を見つめる。
テーブルの上には、ハマチの刺身と揚げ出し豆腐、大根サラダに生春巻き、
焼き鳥が数本、所狭しと並べられている。
視線に気づいた翔太が何、と言うようにこちらを見たので、
美香は慌てて薄っぺらい一切れ口に運ぶ。
「美味し~い」
大袈裟に目を瞑りながらウーロンハイを飲み干す様子をみて、
半ば呆れたようにそれでいて少し嬉しそうに翔太は、
「こんなん旨いかよ、本当に。もっと旨いもの食わしてやりたいねー」
と呟く。

 そんなことも会話の上だけで、
二人が逢うのはいつも翔太が早番で午前零時に店を出られる日に限られていた。