翔太に抱かれたい。
 ここにいると何もかもが嫌になって、
ただひたすら翔太の身体を求めている瞬間(とき)がある。
 でも本当は違う。翔太の髪、翔太の背中、翔太の声、翔太の愛差し(まなざし)、
すべてを感じられる状態にいること、そしてそれらを求める気持ちによって、
美香は支えられていた。
翔太がいなければ酔っ払いの相手をすることはできない。
そして、ここでの仕事と、こういう形での翔太との関わりがなければ、
それほど狂おしく彼を求めることは決してないことも、
美香はちゃんと知っていた。

 そう。翔太を愛することに美香には色々なシチュエーションが必要だった。
仕事上の関わりだけでなく、そこには敦司の存在もきっと不可欠なのだ。
全てを選んでから意思的に始める訳では無論ない。
それらがない状態では彼を思う気持ちもないであろうことを、
ただ知っているだけだ。

いったい皆どうやって恋愛というものをしているのだろう。
いっそお金や地位や外見、そういものが条件なのだったらなっきりしていて楽だろうに。
そう考えて美香はグラスビールを飲み干した。