へえ。
お嬢様といってもそこら辺の女と変わらないと思っていたけど、
さすが、お嬢様。
自分の名前を他人から呼ばれると警戒するんだ。
今までの女は僕が女たちの名前を呼んでも不振がらなかったのに。
「貴方の名前を知らない者はこの街で一人もいませんよ」
本当は嘘だ。
この街の者みんながみんな彼女のことを知っていたらこんなところ、一人で居れるはずがない。
たいてい、吸血鬼は人物のデータを集めて狙う。
名前を知っているのは当たり前だ。
僕は、それにと付け加えた。
「貴方のように美しい方は他にはいらっしゃいません」
僕は彼女の手を取って、ジャケットに潜ませていた香水をのせた。
その様子を見てあわてる彼女。
「えっ、あのこれ……」
僕は得意の笑顔を見せて、あくまで紳士的に振舞う。
「僕には必要のないものになってしまったので」
「でも……」
「それでは、またお会いできるといいですね」
こうして別れれば、彼女の脳裏に僕の印象がはっきりと残る。
そうして、会いたくて、会いたくてたまらないようにすれば……

