「はい」
恐いけど、
きっと貴方となら大丈夫と信じて。
「よかった」
そう言って彼は微笑むと私を持ち上げた。
あの日、
私が家から逃げだしたときみたいに。
思い出してしまうけど、
悲しくなんか無い。
今、私の心を満たしているのは“幸せ”だった。
* * *
彼は私を抱えたまま宙を舞う。
翼は生えていない、
けれどこうも簡単に浮いてしまうなんて。
彼のこと、わかればわかってしまうほど、
距離が離れていく気がする。
彼につれられたまま、
来たのは森の奥深いほうだった。
彼は私を降ろした。
そのときに、思わず口に出してしまった。
「恐い……」
私は言った後で後悔した。
こんなことを言ったら、
更に距離が広がってしまいそうで。
彼は私の顔をそっと手で包んだ。