彼女はしばらくすると、
僕に抱えられたまま眠りについた。



一粒の涙を落としながら。



洋館に着いたとき、
人影が見えた。



僕はすぐに誰だか、わかってしまった。



「玲」



僕の名を呼ぶ女。



「その子が?」


「何の用だ、海」



海は赤い目を光らせて、あら、と言った。



「見てみたいじゃない。玲がてこずる女を」



海は僕が腕で抱えている憂を見る。

そして、ふっと笑う。



「幸せそうに眠るのね」



僕は返事をしない。

する必要が無いと思ったから。



「……どことなくだけど」



懐かしむような声だった。