薔薇の欠片



このまま僕に止めを刺されればいいのに。


……だけど、どうしても邪魔が入る。



「まだ起きているの、憂?」



下の階から女性の声が聞こえた。

彼女の母親だろうか。


憂ははっとし、時計を見るとドアから顔だけを出して答えた。



「ごめんなさい。もう寝ます」



ぱたん、とドアを閉めると彼女は小さくため息をついた。


僕は舌打ちをしそうになった。

だけど、彼女の前では抑えておかなければ、ね。



舌打ちの代わりに言った台詞は、



「いろいろ迷惑そうだから、帰りますね」



だった。


彼女はものすごくさびしそうな顔をした。


やめろよ。

うつるから、僕にも。



「おやすみなさい」



僕はそのまま夜の空にまぎれようと思った。