彼女は
“彼”を想っているのだろうか。
彼女の婚約者。
人間の婚約者。
……もしもそうならば、
はやく僕が彼女に止めを刺す。
彼女が眠りについたら、きっと。
彼女は僕がそう考えているうちにも、窓を閉めようとしていた。
そうしようとしていた彼女を僕は止めた。
「憂さん」
彼女は窓を閉める手を止めて、きょろきょろと辺りを見回していた。
僕はもう一度呼んでみる。
「ここですよ」
彼女はやっと樹に気づき、視線を向けた。
そこでようやく僕の存在に気づいた。
すると彼女は目を丸くして叫んだ。
「危ないですよ!」
危ない?
可笑しなことを言う女だ。
僕がこの樹から万が一落ちても、
僕が死ぬことなんてない。

