カツンッ





軽やかかつ、凛とした音が響き渡るこの座敷。







「また、尚五郎さんの負けですね。」







少しおかしそうに笑う少女。







初めての謁見から一週間。







週に2回、出会うこの二人の時間は碁で埋め尽くされていた。








尚五郎は外の世界で、それなりの学問・武術に通じてきたし、容姿も抜きん出ていたため、自分より年下の遊女に負けるのは、恥辱だった。









「いかがされました?あ、先日のお約束は、尚五郎さんが勝たないといけませんよ。」








悔しそうに顔をゆがめる尚五郎を、雪月は容赦なくからかう。








初回の謁見の時に、二人が交わした約束。









『尚五郎さんがお勝ちになったら、美楼閣に足を運ばなくていいように、ワタクシが姐さんにお頼み申し上げますよ。』










『外の世界では、容姿端麗と名高い尚五郎さんが、遊女ごときに負けるなんて納得いくはずないですものね。』









雪月の申し出により、尚五郎はその条件を飲んだのだった。