「か、かわいそうですね…」

わたしは言った。

「婚約者を置いてどこかへ行くなんて、そんなの彼氏なんかじゃないです!」

由美子先生に同情してしまったかも知れない。

「わたしだったら、こっちから願い下げです」

わたしの口は止まることを知らない。

「鈴木さんは、優しい人ね」

悲しそうに微笑みながら、由美子先生が言った。

「でもね…私、彼のことを忘れることができないの」

彼女の唇から、その名前が出てきた。

「――杉村君博さんを…」

バササッ…と音を立てて、わたしの手からノートが落ちた。

その人って…君博さんのこと?

君博さんは、由美子先生の婚約者だったってこと?

心の中が空っぽになったような気がした。

そんなの違うに決まってる。

君博さんが由美子先生の婚約者な訳ないもん。

そうよ、絶対に違う。

心の中で何度も言って、わたしは自分を納得させた。