10センチ彼氏

いなくなったって…ええっ?

「…まさかとは思うんですが、お亡くなりになったんですか?」

恐る恐る、わたしは聞いた。

由美子先生は悲しそうに目をそらすと、
「死んだんだったら、まだいいわよ」
と、言った。

「それって、どう言う意味ですか?」

続けて、わたしは聞いた。

死んだんだったらって、どう言うことなんですか?

「死んだんだったら、彼のことを忘れられるじゃない。

でも、私は違うの」

「違うって、何がですか?」

何で聞いてしまったのだろうと、わたしは思った。

聞かなきゃよかったのに…。

「私の婚約者はね、いなくなったの」

「えっ?」

いなくなった?

訳がわからなくて、わたしは聞き返した。

「約束をした次の日に、彼は私の前からいなくなった」

「どこへ行ったんですか?」

「それはわからない…でも、いなくなった」

そう言った由美子先生の目に、涙が浮かんでいた。