「すみません、ぼんやりしてて」

そう言ったわたしに、
「いえ、悪いのは私ですから」

彼が答えた。

1人称が“私”なんて変わっているな…。

「では、私はこれで失礼します」

彼は微笑むと、わたしの前を去って行った。

礼儀正しい人だなと後ろ姿を見送っていたら、
「こーゆーきー」

怒ったようなカヤの声に振り返ると、不機嫌そうに唇をとがらせた彼女がやってきた。

「あんまり遅いから探しにきちゃった」

そう言ったカヤに、
「ごめんごめん」

わたしは謝った。

「あのさ、カヤ」

「何?」

「さっき会ったんだけどさ、この学校に紳士的な人っている」

「し、紳士!?」

「すっごい美貌の持ち主で、敬語で…」

わたし、何が言いたいんだろう?