10センチ彼氏

「その柄と後、これも…」

君博さんが指差す方向通りに、わたしは生地を手に取った。

好みの幅が広いですね、君博さん…。


「ずいぶんと買ったねえ」

いや、あなたのせいですから。

値段がバカにならなかったのは言うまでもない話である。

今月、大丈夫かな?

両親から生活費が振り込まれるのは、後10日ほどである。

残りの10日間を思いながら歩いていたら、わたしは立ち止まった。

「小雪ちゃん?」

わたしの名前を呼んだ君博さんを無視すると、近くにあった街灯の影に身をひそめた。

そこからコソツと覗き込むと、
「そう言えばさ、2組の鈴木と別れたんだって?」

友達らしき男の子が隣の男の子――この間別れたばかりの元カレに話しかけた。

「ああ、あいつのことか?

別れた別れた」

そう言った元カレの表情はそれがどうしたとでも言いたげだ。