先生は、準備室を出るギリギリで振り返る。
「ん?どーした?」
「あの……有難うございました!いつも、先生には助けて貰ってばかりで、迷惑かけちゃって……」
ふと、浅利先生は私の口に人差し指を押しあてた。
「迷惑だとかそんなの気にすんな。俺はそんな事これっぽっちも思ってねーよ」
そうニッと笑うと、みんなの所に戻って行く。
『先生~!』
『お~良く出来てるじゃん!』
浅利先生を呼ぶみんなの声。
それに答える明るい浅利先生の声。
私はそんな声を聞きながら美術室を後にする。
浅利先生の指が触れた唇。
キスをされた訳じゃないのに、こんなにもドキドキしている。
変だよね……
私……本気で浅利先生が好きなのかも……
好きになっちゃったのかも……。
浅利先生はきっと私の事なんて、クラスの生徒の一人にしか見ていないんだよね。
私じゃない誰かが怪我をしたって、優しい浅利先生はきっと同じ事を言ったり、したりするんだよね。
わかってるのに、心が言う事を聞かない。
浅利先生のハンカチを握りしめ、私は保健室に向かった。



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