「お疲れ様」
不意に肩を誰かに叩かれ、振り向くと、そこには高枝先生がニコニコ顔で立っていた。
「お疲れ様です」
俺は立ち去ろうとしない高枝先生に気付き、煙草の火をそっと消す。
「浅利君は、誰かを待っているんですか?」
「ええ、まぁ……傘を忘れたのもありますけど」
俺が答えると、高枝先生は「そうですか」と微笑み返す。
本当に……高枝先生が淘子の事を?
やはり信じられない俺は、半信半疑で、隣で淀んだ空を見上げる彼に尋ねる。
「高枝先生は、彼女はいるんですか?」
俺の突然の質問に、彼は目を丸くすると、
「いないですよ。いいなぁと思う人はいるんですけどね」
と、眉をハの字にして笑った。
「もしかして、それって―――」
俺が思わず言いかけた時。
「お待たせ」
淘子がパンプスを履きながら現れた。
彼女は高枝先生の姿に驚くと、「お疲れ様です」とぺこりと頭を下げ、俺の方にそっと寄った。



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