店を出て、来た道を戻る。
エレベーターは急速度で
落下する。

“今日は楽しかったね”

“また時間を作ろうね”

“明日またメールするね”

狭いエレベーターの中で
彼の背中を見ながら
今日最後に別れる言葉を選んでいた。

他の乗客もいたせいかもしれないが
彼は何も語らないまま
エレベーターを降りた。


“おいで”



エレベーターを降りると
彼は私の手を取って歩きだした。

他愛もない一日のはず。

こんなに別れが惜しいなんて
10代の付き合い初めの
彼氏と
ほんの一日離れるのとはワケが違うのに。

永遠に別れるワケではないのに。

私達ならまたすぐに会える。

そう言い聞かせ
私は彼の手を握り返し
後をついて歩いた。



しかし駅を通り過ぎる。