神威異伝





「理緒に頼まれたのは十夜、お主一人じゃ。儂は頼まれておらん」
「大爺のケチ……」



ぽつりと呟き、十夜が箒を動かし始める。


その様子を見ていた賢雄がふと、口元を緩めた。



「しかし…よくここまで傷が回復したものだ」
「ん。……そぉだな、俺…死にかけたんだったな」



十夜が懐かしがるように呟いた。


縁側に座っていた賢雄が立ち上がり、庭先を少し歩く。



「本当を言うとな…十夜。儂はお主の体には、何か障害が残るのではないかと思っていた」


十夜が目を点にする。



「お主が落ちた崖は…この村の者が“死の崖”と恐れる程、昔から何人もの村人が死んでいった崖だったからの。助かったのはお主が初めてかもしれぬ…」