その旅人のような数人…十人は、春だというのに真っ黒のコートを身に纏(まと)っている。
しかも全員がフードを目深に被っているため、顔は口元しか見えない。
理緒が見つめている間も、全く動こうともしない旅人達に、理緒が近寄り声をかけた。
「…あの、どうかしましたか?」
旅人の中の一人が応えた。
「この村に…賢雄殿は、まだ居られるかな?」
理緒に応えた声は、男のものだった。
その声に、理緒は一瞬…寒気がした。
なぜ寒気がしたのか理緒は分からないまま、口を開いた。
「……村長に何か用ですか?」
理緒は、賢雄を自分の祖父とは言わなかった。
村の人間じゃない者の前ではそう言えと、賢雄を教わったからである。
さっき理緒に問いかけて来た男の口元が、吊り上がった。
「忘れ物を取りにきたんですよ…お嬢さん」
その男の声に反応して、六人の旅人が走りだした。
…その手には、短剣が握られていた。


