理緒が腰に手をあて嘆息した。
「記憶よ、記憶。戻らなくても良いの?」
助けてから今日まで、十夜から記憶が戻ったと聞いた事が理緒は一度もない。
十夜が迷ったように唸る。
しかし、十夜は理緒に背を向け頭の後ろで両手を組んで応えた。
「…まぁ、戻る時に戻るだろ」
十夜の言葉に怒りを通り越して呆れてしまった理緒は、ため息を吐いた。
振り返る事なく十夜が歩きだしながら、呟いた。
「それによ…」
「それに?…何よ」
理緒も、十夜の少し後ろを歩きだす。
十夜が振り返り、笑顔でこう言った。
「…俺は別にこのままでも良いんだ。理緒と居んのも楽しいしな」


