神威異伝




「日向にーちゃん、水筒はこんなのでいーの?」
「いや、もう少し大きい方がいいな」


──賑やかな朝食を終えた十夜達は、旅支度をしていた。

暁は初めての旅なので日向が一緒に、暁の部屋で荷造りを手伝っている。

十夜と理緒は自分達の、澪は十夜達に持たせる保存食の準備をしていた。


『一つだけ、お前達に伝えなければならない事がある』
「なんだよ、澪」
『暁の事だ。あの子は自らの意思で“黒狼”になる事が出来ない、だが“黒狼”になれない訳ではないのだ』
「……どういう事ですか?」


遠回しな澪の言い方に、理緒は荷造りの手を止めてしまった。

十夜もよく理解出来ていないらしく、手が止まっていた。


『あの子は負の感情で我を忘れると自らの意思関係なく“黒狼”になってしまうのだ』
「負の感情?」
「簡単に言えば…怒りとか悲しみ、恐怖の事よ」
「おぉ、なるほどな」


理緒の説明に納得する十夜。


「つまり、暁をあんま怒らせたり悲しませたりすんなっつー事か?」


澪が頷く。


『あぁ。特に村や町中では気をつけてくれ』
「どうしてですか?」


理緒が聞くと、澪が眉をしかめながら言った。


『暁は“黒狼”になった時の自分自身を制御出来ないのだ。“黒狼”になったら、あの子はそこらの獣と変わらないものになってしまう…』