まだ痛むのか、耳を押さえながら隣を歩く十夜に理緒が視線だけ向けた。
それに気づいた十夜が、大袈裟に声を張る。
「あー痛い!!耳が伸びるかと思ったぜっ」
「良いんじゃない?今よりはっきりと頼み事が聞こえるだろうから」
「聞こえてなかった訳じゃなくて…忘れてたんだよ。悪かったって」
十夜の謝罪の言葉に、理緒がため息で返した。
「…悪かったなんて謝るんなら、最初からしないでよ」
「だから本当に悪かったってー。怒るなよ、理緒」
「怒ってなんかない」
そう言って歩調を早めた理緒に追いついて、十夜が口を開いた。
「あ、そうだ。理緒」
「…何よ」
理緒が顔を向けないまま返事をすると、十夜が理緒の右肩に手をのせた。
理緒が驚いたように肩を揺らし、足を止めた。
十夜も歩くのを止める。
「理緒」
十夜が名前を呼ぶと、理緒がしぶしぶ顔を十夜に向ける。


