「…だから、もう言い争わないで…ください…」
少年の言葉に、理緒と賢雄は口を閉ざした。
賢雄が苦笑を漏らした。
「これくらいの事、気にするでない…。しかしお主、思い出すと言って思いだせれるものでもなかろう」
「でも…」
「……とおや」
口篭る少年の言葉を遮るように、理緒が呟いた。
少年が首を傾げた。
「え…?」
「…十日も寝てたアンタには“十夜”(とおや)で十分よっ」
「“十夜”か…ふむ、中々良い名じゃのぅ」
賢雄が顎をさすり、微笑んだ。
「お主は、本当の名を思いだすまで“十夜”じゃ。それで良いかの?」
「……“十夜”…」
「…嫌なら嫌って言えば?」
そう冷たく言い放ち、理緒が部屋を出ようとした時。
「ま、待って…っ」
少年が体を起こし、理緒を呼び止めた。
理緒が視線だけ少年に向けると、少年が口を開いた。
「…俺は、十夜…」
少年…十夜が微笑んだ。
「名前をくれて…、ありがとう…理緒」
「べ、別にお礼なんて言われても困るし!!」
そう言い残し、理緒は頬を微かに赤らめて部屋を後にした。


