ふと何かを思い出したのか、賢雄が口を開いた。
「お主、名も分からぬのか?」
「………。…はい、すいません」
思い出そうとしたのだろうが、やはり無理だったようだ。
賢雄が顔を上げ、理緒に声をかけた。
「そうか…。ならば理緒、お前が彼に名前をつけてやれ」
「え!!?…な、何であたしが!!」
理緒が叫ぶのを気にせず、賢雄が少年に自己紹介を始めた。
「忘れておった…儂は賢雄、この白月村の村長をやっとる者だ。それで、あやつが理緒。儂の孫でな…崖の下で倒れていたお主を見つけたのが理緒じゃ」
「…君が…俺を……」
少年が理緒の方に顔を向けると、理緒がそっぽを向いた。
その様子を見て、賢雄が肩を小さく揺らして笑った。
「理緒、早く決めないと彼は名を思い出すまで名無しの権兵衛じゃぞ」
「だから、何であたしなの!!おじいちゃんが決めれば良いでしょ?」
「見つけたのはお前だ。責任は、お前にあるじゃろう」
二人の言い合いに、少年が恐る恐る口を挟んだ。
「…あの、俺……名前、思い出しますから…」


