十夜の背中を黙って見つめていた理緒は、思わず深い溜め息を吐いた。
(十夜。あいつ、いつもヘラヘラしてるくせにさ……)
そう心の中で呟いた時、理緒の脳裏には二つの顔が浮かんでいた。
一つは、いつもの十夜の顔。
そして、もう一つは……
先程見せた、今にも泣き出しそうな十夜の顔。
十夜だって、人の子である。
記憶が無い事が、本当に不安じゃない訳はない。
……記憶が無い事が、本当に悲しくない訳はない。
先程十夜が一瞬見せた表情は、普段十夜が誰にも気づかれない様に隠している……本当の感情なのかもしれない、と理緒は思った。


