「なんか修学旅行みたいだね?」
人の気も知らずに無邪気なものだ。
「じゃ、枕投げでもするか?」
バカ、と小さな返事が返ってきた。
「じゃ、好きな子の発表会でもするか?」
「ふざけてないで、もっと真面目なこと言って」
茶化してきたのはそっちだろ、一瞬の沈黙が暗闇の中に訪れた。「病気になってからね、大切な物が沢山私の中から奪われたの。仕事も、そこにいた友達も、平井のマンションもそう。体の自由も食べたい物も、夢も希望も将来も。人生にね、命にね、ここで行き止まりです、って言われたの。お父さんとお母さんより先に旅立たなくちゃいけないなんて、本当に親不孝な娘だよね…。でも何より堪えたのは、たっくんの存在だったな」
そこまで言うと、息を整える様に二、三度深い呼吸を繰り返した。