翌日からは残業を積極的にこなした。理由は言うまでもないが、金曜日に定時に帰れるようにするためだった。そして、一人で過ごす時間を少しでも短くするためだった。一人で過ごす時間は、どうしても何か得体の知れぬ恐怖に襲われてしまう。その恐怖に名前をつけることも、その姿を正視することもまだ出来なかった。
春香は毎日、その日の出来事をメールで送ってきてくれた。同年代のボランティアヘルパーの瑞希ちゃんという子が訪れ、年も近いことからすぐに仲良くなれたこと。今日は体調が良かったので、お母さんと近くのスーパーへ買い物に行ったこと。ドクターが検診に来てくれ、顔色が良くなったと褒められたこと、などなどを。春香が元気な姿を思い浮かべると嬉しくなったが、同時に、限られた世界でしか生きられない彼女を思うと、胸が痛み、深い溜息が疲れを増幅させる様だった。