あの日は映画を見に行ったのだ、場所は渋谷の公園通り沿いに面した、雑居ビルのワンフロアを使った映画館。
ただ開演時間のタイミングがよかったたけで、特別な思い入れのある場所ではなかった。
その内容はイライジャウッド主演、一つの指輪を巡る冒険を描いた、 三部作によるファンタスティック映画の三部目。一部二部は以前付き合っていた彼女と見たのだが、その彼女ともすでに別れ、当時恋人と呼べる存在のいない僕は、一人でその映画を見に行った。
一人で映画館に入ることに抵抗を感じたが、この年になって男二人もなんだし、ましてや元彼女と見ていた映画を、他の女の子と見るのも気がひけた。別れたとはいえ、元彼女という女性に対する、一応の礼儀は踏まえたかった。