良かったのだろうか、一時的な感情や、酔っていたとはいえ、こんなことになってしまったことが。いや、良いも悪いもない。第一そんな物は存在しない。フィルターにまで達した火を押し消すと、貴美の眠るベッドを見つめた。心の傷を癒すために、いや誤魔化すために、新たな傷を刻みつけてしまったのかもしれない。ベッドに向かうと、静かに眠る貴美を抱き寄せた。不機嫌そうに眉をしかめるが、その腕は首に絡みついてきた。癒える術のない傷ならば、なめ合えばいい。自ら傷付けた傷ならば、せめて今だけは抱きしめよう。そして眠りに落ちて行けばいい。遠のく意識の中、全身に感じる温もりだけが、たった一つの救いに思えた。この暗く沈みきった思いから救い出してくれるのは、貴美なのかもしれない。気まぐれに再び現れたが、全て運命のもとなのかもしれない。ならば全てを忘れ、たった一つ確かな温もりに身を任せよう。失ったものを追い求めるには、今は少々疲れ過ぎていた。忘れよう、忘れればいいんだ。そしてもう一度貴美とやり直そう。それでいいんだ。それで。右頬を伝う一筋の軌跡を拭うこともなく、再び眠りに落ちた。