どんな時も気丈に振舞うその強さが、今日は単なる強がりにしか見えなかった。気が付けば、貴美の体を抱き寄せていた。一体、春香と貴美、どちらの存在を望んでいるのだろう?どちらを愛しているのだろう?昨日までは考えたこともないことだった。だが今は大きな問題として立ちはだかっていた。幾ら考えても分からない。ただ今はこの胸に空いた穴を、埋める温もりが恋しかった。
『お兄ちゃんダメじゃない、春香さんを泣かしたら』
夢でみた莉那の声が頭を過ぎった。だがあれは夢の中の話だ。本当に泣いているのは、春香ではない。