―…正月の騒がしさも一段落ついた、穏やかな春の初めの頃。


「まあ、綺麗な織物。
これも宮のお召し物にしましょう。」

「皇太后様…綺麗な衣を全て姫宮に差し上げていらしては、御自分のものが無くなってしまいます。」


そうたしなめられて、美しい女性が豊かな黒髪を揺らして少しお笑いになりました。

御年四十三歳――とは言え、しみ・しわ一つ無い女盛りの美貌は三十代前半ほどに見えます。



「こんなに散らかして、何をしていらっしゃるのですか?」

音もなく、貫禄のある美しい男性が入っていらっしゃいました。

「院…
いらっしゃる時はお知らせくださいと、もう何年も申し上げておりますのに。」

恥ずかしそうに、織物を押しやります。


「何年も一緒にいるのに、何を私に隠したいと仰るのですか。
心外ですね。」

そう仰って女君の肩をお抱きになりますと、その場にいた女房達は、気を利かせてお側を去りました。