現世の辛さの余り、宮様は何度も出家をお考えになりました。
しかしそれを止めた要因は、東の御方から受け取られた幼い若君、祖母君を心から慕っていらっしゃる三の宮と女一の宮、登華殿様の新しくお生まれになった可愛らしい姫宮、そして何よりいくつになってもお愛おしい、御自らの御腹を痛めたお二人の姫君でした。
それなのに、どこまで薄幸な御方なのでしょう。
登華殿様が病で亡くなられ、余りに御仲のよろしかった梅壺様は髪を切り落としてしまわれたのです。
登華殿様が御邸で息を引き取られた時、宮様は登華殿様の御亡骸から離れる事がお出来になりませんでした。
ひしと抱きしめて動かれなかったのです。
その傍らで、梅壺様はふらふらと出て行かれました。
それに気をつける余裕のある人など、誰もおりませんでした。
するとしばらくして人の悲鳴が聞こえたのです。
それでも登華殿様から離れようとなさらなかった宮様でしたが、続いて聞こえた「梅壺様ーっ!!」という声にハッとされ、走って出て行かれました。
宮様の走る姿など、ほんの幼い頃以来見た事がありませんでした。
急いで宮様の後を追うと、口元に御袖を当てて「唯…唯姫…。」と呟かれて、茫然と立っていらっしゃいました。
その視線の先を見ると、美しい髪がばっさりと床に落ち、肩の上で斜めに切られて揺れる髪になった梅壺様が何もご覧にならず座っていらっしゃったのでした。

