「ところで殿。」
しばらくして、聞き役だった宮様が切り出しました。
「皇族の人間として、殿に申し上げなければならない事がございます。
中宮様のお腹の御子…御子は、貴方の御種でございますわよね?」
殿は、盃を持ったままぴたりと止まりました。
私からは、宮様の真剣な表情しか見えません。
「帝に皇子のいない今、もしその御子が男子だったら…
皇統を乱すような事は、決して容認出来ません。」
その時初めて、宮様に皇族の威厳を感じました。
おっとりとした高貴さはあっても、それ故にはっきりとものをおっしゃらないのです。
殿は、「…分かっている。」とだけ言いました。
宮様は静かに立ち上がって、御帳台にお入りになりました。
殿はそのまま、横になって夜を明かしてしまいました。

