平安物語=短編集=【完】




殿が出て行った後、ぽつんと座っていらっしゃる宮様のおそばに参りました。


「式部…。
駄目だわ、私…」

静かに一筋涙を流されるそのお美しさ。

堰を切ったように、お心の内を打ち明けて下さいました。


「殿のお気持ちには、気付いていたの。
私にも姫達にも殆ど関心を示さなかった殿が、中宮様には本当に親身になっていらっしゃるのだもの。
それでも、まさか后ならば諦めると思っていたのよ。
虚しくて辛かったけれど、妻は絶対に私だと。
でも殿はあの方と契ってしまわれた。
正式な結婚は出来なくても、お二人の中では夫婦なのよ。
何があっても揺るがないと思っていた北の方の地位だったのに、あの方は私と同じ内親王。
私は何に自信を持ったら良いの?」



もう何十年も心から殿を愛していらした宮様に対する、この仕打ち。

「宮様…
ここを出て参りませんか?
あんな無礼者、こちらから願い下げでございます。」

宮様は、涙に濡れたお顔を辛そうに歪めました。

「駄目よ、式部…
今日も私、本当に憎らしいと思いながらも殿のお召し物の手を抜けなかったの。
私はもう一生、殿を思い切る事なんて出来ないんだわ。
亡き母后が、あんなにこの結婚に反対なさった理由が今になってやっと分かったわ…」