平安物語=短編集=【完】




そんなある満月の夜、中宮御所をお訪ねの殿が、珍しく夜になっても帰って来ませんでした。

こんな夜ですし、中宮様と一緒に満月を愛でているのかと思っておりましたが、夜が更けても帰って来ません。

どうした事かと不思議に思って宮様の御前に参りますと、宮様は早々に御帳台に入っていらっしゃいました。

しかしどうやらその中で起き上がっていらっしゃるようなので、

「宮様、今宵殿は何か御用がおありのようでいらっしゃいましたか?」

と声をおかけ致しました。

すると、

「……知りません!」

と悲痛な声をお出しになって臥してしまわれたのです。

そんな取り乱した宮様を見たのは初めてでしたので、私にも思い当たる考えが浮かんだのでした。