そのうち、大切なお見舞いがいらしたと言って殿が出て行かれました。

ぐったりと横になると、北のお方からお手軽が届きました。


『若草の生ふる春こそめでたけれ
千歳を過ぐる由もあらなむ

(若草が生えるように、若君がご誕生のこの春は本当におめでたいことです。
千年でも生きて頂きたいものですわね。)』

優しく優美なお筆跡を拝見するだけで、何となく涙が出ます。

女房に硯と筆を持って来てもらって、重い体を起こしてお返事を書きました。


『この若君のご誕生は本当に嬉しく思います。
どうやら私はもう長くは生きられそうもございませんので、あなた様にはどうか、この若君を疎ましく無礼な女の息子だとお疎みにならず、人並みにお扱い頂けましたらと存じます。

いたづらにふりける雨は
ひたすらに
残る若葉の先をのみ思ふ

(ただただ私が涙をこらえられませんのは、ひたすら、この世に残して逝く若君の将来を案じるからなのです。)

あなかしこ』