その時、乳母と乳母子(メノトゴ)の大輔(タイフ)の君がやって来ました。
天の助けとばかりに手招きすると、不思議そうに近寄って来ます。
「外に中将様がいらっしゃいます。
然るべきように応対してちょうだい。」
そう言って、さっと奥へ入ろうとすると
「唐衣 袖の氷の冷たまし 君ならずして 誰か溶くべき
(あなたの冷たいお扱いに、私の袖は涙で濡れてとても冷たいのですよ。
この悲しみはあなた以外には癒せません。)
あんまり情けなくて。」
と詠みかけられたので、
「春雨の 袖濡らすらむ 唐衣 悩みて濡るる 我が身なりけり
(涙ではなく春雨が、あなたの袖を濡らしているのでしょう。
私こそ、困り切って涙が出ますわ。)」
と返して逃げ込みました。

