「左近さん、準備が整いました。」
元気よく駆け出してくる紫衣。
「そんなに慌てると....。」
最後まで言い終わるまでに足を滑らせて紫衣は見事に転んでいた。
「ほら、言わんこっちゃない。」
豪快に転んだ紫衣に近づき手を差し伸べてやると照れくさそうに笑いながら俺の手を小さな手で握りしめる。
愛おしい。
俺にも父性というものが存在していたのだとこそばゆくなる。
「ごめんなさい。おしとやかにしなくちゃって思うんだけど、いつも慌ててしまって...。」
そう言って紫衣は肩を落としてシュンと項垂れていた。
「そうだぞ。お城にあがると俺はいつもお前の側にいるわけにはいかないからな。ちゃんとおしとやかに俺の娘として恥ずかしくない振る舞いをしてくれ。」
わざと突き放すように行った俺に紫衣は更に肩を落としている。
「ごめんなさい、左近さん。」
「俺のことは今から父と呼べ。」
更にきつい口調で紫衣に話しかけた。
「はい。お父様。」
目を伏せたまま返事をする紫衣。
本当はこんな言い方したくない。
だけど俺がお前を手放したくないと思い始めているのだ。
距離を置かなければ...。
その思いからどうしても紫衣に冷たくしてしまう。
本当は抱きしめて紫衣の寂しさを埋めてやりたい。
ここで生きるお前を支えてやりたい。
でも、それは俺じゃないんだよ。
紫衣は殿に逢うためにここに来たんだろう?
俺は殿を癒し、支えになってくれる二人を外から支えるという役目がある。
その役目を俺が忘れてしまう前にお前から離れなければならない。


