その日を境に紫衣はあの川原に現れることはなかった。
不思議な少女。
逢うたびに俺の持っていく干菓子を喜んで食べていた。
俺もいつも川原に来る時は干菓子を持って来ていたんだ。
川原でいつも紫衣と座った大きな岩の上に紙にくるまれた小さな干菓子が並べられている。
俺が来る度持ってきた干菓子を紫衣のために置いていくからだ。
「紫衣、どうした?何故お前は俺の前から消えた。」
並べられた干菓子のに向って話しかけている俺は冷静でキレ者だと恐れられる男の姿とは程遠い。
普段の俺を知る者は今の俺を俺だと信じられないだろう。
実際俺は勤めて冷たくしている。
人との関わりも最小限にしている。
それが一番楽だということも俺自身知っているからだ。
仕事においても円滑に進めるには情が深いと邪魔になる。
何をおいても俺はお仕えする君主のために忠誠を尽くすため存在するのだから...。
「だけどな、紫衣。俺はお前があたたかかったのだ。太陽のように笑うお前の笑顔がたまらなく俺の心を癒してくれていたのだ。紫衣...。」
名前を呼ぶだけで心に明かりが灯るようにあたたかくなる不思議な少女。
紫衣、また逢いたいものだ。


