「俺は紫衣に何から助けてほしいって言ったんだ?」
少し紫衣のおとぎ話に付き合ってやろう。
そんな気分で紫衣に尋ねた。
「遣り残したことがあるっておにいちゃんは言ったのよ。」
遣り残したこと?
「おいおい、それでは俺が死んでいるみたいじゃないか。」
不吉な話に子供相手というのも忘れて背中がゾクリと寒くなった。
「そうだよ。お兄ちゃんが死んでから紫衣はおにいちゃんに逢ったんだもの。」
紫衣は悪びれる様子もなく話を続ける。
俺が死んでから逢っただと?
それで遣り残したことがあると聞いたと?
それではまるで俺は自分の人生に納得がいかないまま死を迎えたということではないか?
子供の言葉に動揺されている場合ではない。
心の中で繰り返しながら俺は紫衣にニッコリと微笑んだ。
「紫衣は死んだ俺に逢ったのか。俺は幸せではなかったのだな。」
わざと落ち込んだように見せかけて紫衣に話しかけた。
そんな俺の背中を一生懸命小さな手で擦りながら紫衣は口を開いた。
「お兄ちゃんは紫衣が助けるの。紫衣の大好きなお兄ちゃんだもの、絶対に助けるの!」
強い言葉を残したまま紫衣は俺の膝から立ち上がり、クルリと踵を返して走り出した。
俺はその小さな背中を唖然としたまま見つめていたんだ。


